体験談から見えてくるもの
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Aさんの体験談
参考までに、20年ほど遠距離介護を続けてきた方の体験談を紹介します。ここではその方を、Aさんとします。Aさんは東京在住で、祖母が暮らす栃木に通いながら遠距離介護を続けてきました。祖母の介護を始める前に、祖父に介護が必要になった際は親戚や近隣住民、祖父の知人などの協力もあり、自宅で無理なく暮らすことができていました。毎日のように祖父の様子を見る人がいて、時には一緒に外出をしながら安否の確認をしてくれていたので、Aさんも安心できたそうです。
しかし、祖母に介護が必要になった際には、認知症を発症していたこともあり、状況がかなり違ったそうです。Aさんが仕事の関係で行けない時は、Aさんの妻が代わりに栃木に帰省して介護をしていました。時には1ヵ月ほどの長期介護が必要になったこともあったそうです。
厳しい状況が続き、流石に遠距離介護だけで面倒を見るのは難しいと判断し、ケアマネジャーに相談した上で介護サービスを利用することにしました。専門職に任せることで、客観的に状況を把握できるようになって非常に助かりましたが、一方でいくつかの課題もあったそうです。
医療との兼ね合い
Aさんの祖母は医療に対する依存意識が高く、内科だけでなく複数の診療科に通い、多くのかかりつけ医がいました。定期的に診察を受け、検査結果に少しでも異常があればMRIやCTの検査を受けたがったそうです。晩年は1人のかかりつけ医に絞ることができましたが、検査への執着は最後まで変わらず、ケアマネジャーとしてもその意向を尊重しないわけにはいかず、何度も同行してもらいました。職業柄、本人の意向に沿うことが大切なのは理解しているものの、Aさんとしては専門職の立場から過剰な検査は避けるようにアドバイスして欲しかったというのが本音のようです。
まとめ
人生の終わりが近い親を持つ人にとって、遠距離介護は負担が大きく様々な困難を乗り超えなければなりません。医師のお世話になる機会も多くなり、その度に感謝はするものの、その場にいない限り自分の意向が反映されることは少なくなります。とはいえ、仕事の都合上頻繁に帰省することもできません。自分の妻に負担をかけるわけにもいかず、先の見えない介護に対してAさんは精神的に大きく疲弊したそうです。
Aさんの祖母は、周囲の協力もあり無事に人生の最期を迎えることができました。しかし、社会全体で見れば、高齢者を支える人々の負担は増えていく一方です。地域包括ケアの構築が本格化しているものの、まだまだ至らない部分もあるため、国としても遠距離介護に関する課題に対して積極的に取り組んでいかなければなりません。